前編
後編
前編 ── 株が下がらない構造
なぜ下がらないのか
1 リーマンショックの本質
- リーマンショック(2008年9月)の核心は、リーマン破綻そのものよりも、翌日にAIGが事実上の破綻に追い込まれたことにある。
- CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)とは「倒産保険」のこと。CDS残高は2003年の3.8兆ドルから2007年には62兆ドルへと爆発的に拡大した。
- 当時の世界の株式市場規模(約70兆ドル)に匹敵するデリバティブが水面下に存在し、それが崩壊したのがリーマンショックの正体=「スーパーバブル崩壊」である。
- FRBはAIGに約20兆円を即座に注入し、ゴールドマンサックスなど主要金融機関にも資金供給を行った。
2 危機のたびに膨張する救済規模
危機救済規模倍率 1998年 LTCM崩壊36億ドル(約3,600億円)基準 2008年 リーマンショック1,820億ドル約50倍 2020年 コロナショック3兆ドル(約300兆円)さらに激増
- FRBのバランスシートは0.9兆ドルから9兆ドルへ(約10倍)拡大。日銀も120兆円→730兆円(6.1倍)、ECBも5.7倍に拡大した。
- 一方、実体経済の成長はアメリカ1.9倍、日本1.2倍、欧州1.4倍にとどまり、金融拡大に遠く及ばない。
3 金融インフレという構造
中央銀行が金融市場に資金を流し込む構造が定着し、金融資産の永久インフレが発生した。リーマンショック後、日経平均は7,100円→5万円(約7倍)、ナスダックは1,200pt→24,000pt(約20倍)に上昇している。
第1段階(2008〜2021年)金融市場のみがインフレ。株・債券・不動産が同時上昇。 第2段階(2022年〜)金融インフレが実体経済に波及し、世界的な物価上昇(実体インフレ)が発生。 現在(2025年〜)通貨の信認が揺らぎ始め、金や株の上昇が加速。「ディベースメント取引」の時代へ。
4 なぜ日本が買われるのか
世界の余剰マネーはグローバルな価格均衡に向かって動く。NYの家賃51万円に対し東京港区は21万円、ウォール街の平均年収7,700万円に対し日本の大手証券は1,400万円というように、日本の価格・賃金は国際的に見て際立って割安である。
- 日本は世界最大のバーゲンセール市場。円安・低金利・低物価・低賃金が揃い、海外投資家には割安に映る。
- 1998年のビッグバン(資本自由化)以降、防波堤がなくなり海外マネーが無制限に流入可能になった。
- 半導体・AI・素材、東京・大阪の不動産など「日本で買えるもの」を海外資本が次々と購入している。
- 日本は政治的安定・技術力・日米軍事同盟によりリスクが低く、割安な投資対象として最適である。
5 株価は下がらない ── その構造的理由
- 「FRBプット」「グリーンスパンプット」「トランププット」:1987年以来、株価下落のたびに当局が即座に金融緩和・流動性供給で対応してきた歴史がある。
- トランプ大統領も2025年4月の関税ショックで株・債券が暴落した際、半日で関税撤廃を決定した。株価が唯一の政策判断基準になっている。
- 中央銀行の役割の変化:かつての「通貨の番人(物価・雇用)」から株価の守護者へ実態が変容した。
- 株価指数(日経平均・S&P500等)は単なる市場ではなく国力の象徴・国家の信用である。暴落すれば「国家の信用危機」になるため、あらゆる手段で防衛する。
- 指数の構成銘柄は常に「強者生存バイアス」で入れ替えられるため、インデックス自体は構造的に上昇し続ける。
6 建前と実態の乖離という矛盾
- 公式には「物価と雇用が政策目標」と言わざるを得ないが、実態は株価を政策変数の最優先としている。
- 日銀の政策委員は学者が多く株式の実践経験がゼロ。欧米(ポールソン、ドラギ、カーニー等)はゴールドマン出身者など市場経験者が主導している点で差がある。
- 現代の経済学モデルは「実体経済→株価」という流れを前提にしているが、現実は株価→実体経済という逆転が起きており、理論が実態に追いついていない。
株式市場の崩壊は許されない。調整は許されるが、暴落は許されない。暴落不能構造が世界中で完成した。
- 一時的な1〜2割の下落はあっても、長期低迷は絶対に許されない仕組みが2008年以降に確立した。
- 金融インフレという構造的・恒常的な上昇圧力が株・不動産に働き続けている。
後編 ── だから株を持つしかない
だからどうなるのか
1 市場はもはや「政策装置」になった
株価はすでに政策目標の核心に位置し、中央銀行の真の目標は株価維持に変わった。暴落は「調整のみ許される」構造が成立し、市場崩壊不能構造(暴落防止システム)が完成した。
2 市場崩壊不能構造の「逆側」リスク
暴落は止められても、株価の「上昇暴走」は止める手段がない。同様に円安・金利上昇も止められない。この非対称構造ゆえに、インフレは抑えられないという歴史的必然がある。
3 株高・円安・金利上昇は「必然の歴史」
実質金利がマイナスに沈む中、株高・円安・金利高騰の三点セットは不可避である。日本が世界で最初にこの流れが顕在化する国だと指摘し、株を持たない人は「おしまい」と断言する。
4 インフレ財政という「幻想」── 高石内閣批判
財政赤字が改善しているように見えるのはインフレによる名目税収増(=インフレ税)が原因であり、実質的には「全国民への増税」が行われている。財政健全化は名目上の錯覚に過ぎない。
インフレ税の実証データ(2015〜2025年)消費者物価と名目・実質税収・財政赤字の推移を年次データで提示。2023年以降、名目税収と実質税収の乖離が拡大し財政赤字が縮小している実態を示し、「インフレ税を取っているだけ」と批判する。
5「快楽金融」── 国民・政府が気づかないトリック
補助金・給付金・賃金上昇・株高がもたらす「快楽」により、国民はインフレによる実質所得低下に気づかない。政府も同じトリックの中で積極財政をさらに拡大しようとしている。
6 ガソリン・電気ガス補助金と供給不足の矛盾
米(コメ)価格の高騰を例に、供給不足が原因の物価上昇に対して補助金(需要増加策)を打つことは逆効果であると指摘。「当たり前のことが起きているだけ」とし、誰も指摘しない現状を批判する。
7 高圧経済政策の危険性
インフレが始まっているにもかかわらず、デフレ対策(高圧経済)を適用しようとしているのは「インフレ管理不能の初期段階への突入」に向けてアクセルを踏む行為だと断言。日本が壮大なインフレ実験場になると警告する。
8 実質金利マイナスと株価の必然的上昇
2015〜2025年の政策金利・消費者物価・実質金利・日経平均の推移を対照し、実質金利がマイナス深化するほど株価が上昇するメカニズムを実証。「現金を持つ合理性はゼロ」と結論づける。
9 最低賃金の急上昇と日銀の見逃し
最低賃金が2022〜2025年に急ピッチで上昇(2025年は前年比+8.1%)し、非正規労働者2,000万人に年間5〜6兆円の賃金効果が波及する。日銀は春闘(大企業)のみ注視し、最低賃金を完全に無視していると批判する。
10 2層構造の賃金インフレと今後の展望
春闘(上から)と最低賃金(下から)の両方向から賃金上昇圧力がかかる「2層構造」が形成されており、インフレ期待の固定化・加速が不可避である。日銀の政策対応の遅れがインフレをさらに加速させる。
株高・円安・金利高は歴史的必然であり、誰も崩せない。
インフレが加速する構造の中で、唯一の自己防衛策は株・不動産・金を保有することである。次回セミナー(2026年7月18日)への参加を呼びかけて締めくくる。
全体総括
論理構造の要約
前提(前編)2008年以降、危機のたびの救済で中央銀行は「株価の守護者」へ変質し、暴落不能構造が完成した。波及(前編)金融インフレは金融市場 → 実体経済 → 通貨信認の動揺、と3段階で広がる。日本はその割安さゆえに海外マネーに買われる。非対称性(後編)暴落は止められても上昇・円安・金利上昇は止められない。ゆえに株高・円安・金利高は必然。財政の錯覚(後編)財政改善はインフレ税による名目上の幻想。実質は全国民への増税。賃金の加速(後編)春闘と最低賃金の2層構造でインフレ期待が固定化・加速する。結論現金保有の合理性はゼロ。自己防衛策は株・不動産・金の保有のみ。
出典:ASAKURA経済セミナー「株はもう下がらない!」前編・後編(2025年11月15日開催/2026年6月公開)
本文書は講演者・朝倉慶氏の主張を忠実に再現したものであり、その正確性・妥当性を保証するものではありません。投資判断は自己責任で行ってください。
